学会のご案内

今が旬の眼循環トピックス

第3回

眼循環学会広報委員会では、眼循環にまつわるホットな話題を集めて「今が旬の眼循環トピックス」として配信しています。
第3回の眼循環トピックスは、2022年の緑内障学会と網膜硝子体学会から眼循環に関わる話題をピックアップいたしました。
面高宗子先生は、視神経乳頭の血流と緑内障との関連についての研究成果を紹介してくださっています。視神経乳頭の血流障害は、果たして緑内障性視野障害の原因なのか結果なのか、どちらなのでしょう?ぜひお読みください。
長谷川泰司先生には、網膜静脈閉塞症の視力予後を推定するための、OCTAやOCTの活用法を教えて頂きました。抗VEGF療法の効果がみられにくい所見をチェックしてみてください。

兵庫医科大学  五味 文

血流低下型緑内障の層別化東北大学 面高宗子

東北大学 面高宗子 緑内障は、今なお失明原因の上位に位置する。緑内障の網膜神経節細胞死は不可逆性であり、この超高齢化社会において視機能をまもるには、病態解明と治療戦略が急務である。緑内障は多因子疾患であり、眼圧・高齢・循環障害1)・近視・角膜厚・酸化ストレスなどが報告されている。メタ解析による視野障害進行の関連因子を調べた報告2)より、高齢・高い眼圧・眼循環障害に関わる因子が、緑内障の視野障害の進行に関与していることが分かる。このことから、緑内障診療において眼血流評価を行う必要性があるといえよう。

一方、視神経乳頭の血流は緑内障の障害によっても廃用性に低下するため、一概に測定値そのままの値で評価することが難しい。そこで我々は、交絡因子で補正した血流のインデックスを作成する必要があると考えた。緑内障障害程度として、視野のmean deviation(MD)値が代表的だが、病初期には変化しづらいため、広い病期に渡り評価しやすくするため、既報3)に準じ、機能(視野)と構造(OCT)を組み合わせて算出した推測の網膜神経節細胞数(WRGC)を用いた。年齢・等価球面度数・WRGCが、レーザースペックルフローグラフィの乳頭組織血流と有意に関連していることが判明した。そこで重回帰式により、乳頭組織血流を年齢・等価球面度数・WRGCを用いて補正した。眼血流に影響をあたえうる因子で補正することで、緑内障の廃用性変化をも含め補正した眼血流インデックスが作成された4)

さらに、眼血流インデックス良好群と不良群との緑内障性障害の相違を検討する研究を計画した。補正した眼血流インデックスを用いて、眼血流良好群と眼血流低下群で比較すると、眼血流低下群は眼血流良好群よりも、乳頭周囲網膜神経線維層厚の菲薄化、黄斑部神経節細胞複合体(ganglion cell complex)厚の有意な菲薄化を認めた4,5)。血流低下型緑内障を層別化し、緑内障性障害が引き起こされやすいことが明らかとなった。緑内障の危険因子を臨床の現場で定量・可視化し診療へ活かす方向性が、今後重要となるであろう。

眼血流が低下した緑内障症例
図. 眼血流が低下した緑内障症例
眼底写真では、視神経乳頭陥凹拡大と視神経乳頭蒼白化を認める。レーザースペックルフローグラフィにて、視神経乳頭組織血流の低下を認める。高度な視野障害を有する。
(文献)
  1. 1) Caprioli J, Coleman AL, et al. Blood pressure, perfusion pressure, and glaucoma. Am J Ophthalmol. 2010;149:704-712.
  2. 2) Ernest PJ, Schouten JS, Beckers HJ, et al. An evidence-based review of prognostic factors for glaucomatous visual field progression. Ophthalmology. 2013;120:512-519
  3. 3) Medeiros FA, Lisboa R, Weinreb RN, et al. Arch Ophthalmol. 2012;130:1107-1116.
  4. 4) Omodaka K, Fujioka S, An G, et al. Structural Characterization of Glaucoma Patients with Low Ocular Blood Flow. Curr Eye Res. 2020;45:1302-1308.
  5. 5) Omodaka K, Kikawa T, Kabakura S, et al. Clinical characteristics of glaucoma patients with various risk factors. BMC Ophthalmol. 2022;22:373.

眼底イメージングで深まる網膜静脈閉塞症の病態理解東京女子医科大学眼科学講座 長谷川泰司

東京女子医科大学眼科学講座 長谷川泰司  網膜静脈閉塞症(RVO)において、黄斑浮腫と黄斑虚血が視機能障害をきたす主な原因であり、その評価には光干渉断層計(OCT)や光干渉断層血管撮影(OCTA)が有用である。
 RVOに伴う黄斑浮腫の特徴として、抗血管内皮増殖因子(抗VEGF)療法に対する反応が良好であること、自然軽快や少ない治療回数で終了できる症例が含まれることなどから、本邦では初回1回投与後は必要時に投与するpro re nata(PRN)投与、つまり1+ PRNレジメンが選択されることが多く、実際多くの症例で良好な視力予後が得られている1),2)。治療前の中心窩視細胞層の健常性は治療後視力と強く関連することが知られており、OCTを活用して外境界膜やellipsoid zoneの状態を評価し、それを患者さんと情報共有することは治療を円滑に進める上で重要となる3)。黄斑虚血の点では、特に網膜中心静脈閉塞症において中心窩無血管域(FAZ)の著しい拡大やparacentral acute middle maculopathy(PAMM)がみられる症例では視力低下や傍中心暗点などをきたすため、OCTAを活用した評価が重要である(図1)4)
 抗VEGF療法の登場によって視力予後が大きく改善したRVOではあるが、一部では繰り返す黄斑浮腫のために一旦改善した視力が再び低下し、視力予後が不良となる症例がある。近年、中心窩網膜厚の”変動”=”fluctuation”がOCT所見のトピックスとして注目されており、RVOにおいて治療経過中のfluctuationが大きい症例では中心窩ellipsoid zoneの欠損幅が進行し、視力予後が不良になりやすいことが報告されている5)。そのような症例には、Treat and Extendや固定投与などのより積極的な治療レジメン6)にスイッチすることが有効であると考えられ、OCTを活用した適切な治療レジメンの選択が必要となる(図2)。一方でfluctuationが大きい症例では、治療前視力がそもそも不良であり、積極的な治療レジメンを選択しても視力改善には限界がある症例が多く含まれるという事も指摘されており、年齢や僚眼の状態などの患者背景も十分に考慮する必要がある。
 眼循環領域における重要な疾患である網膜静脈閉塞症は、抗VEGF療法の登場によって比較的良好な視力予後を得ることが可能となったが、適切な治療マネジメントを目指す上でまだまだ解決すべき課題も多く、OCTやOCTAなどの眼底イメージングの活用によって病態理解がさらに深まり、それらが実臨床に還元されることを期待したい。

図1. 網膜中心静脈閉塞症に合併したPAMM
図1. 網膜中心静脈閉塞症に合併したPAMM
黄斑部に網膜白濁(a. 矢頭)がみられるが、FAでは明らかな異常はみられない(b)。網膜表層slab(c)に比べて、網膜中間層・深層slab(d)ではen-face OCTで病変が高反射像となり、病変の拡がりを把握しやすい。OCTAでも毛細血管血流のシグナル低下がみられる。OCTでは中心窩周囲の内顆粒層に高反射像(e. 矢頭)がみられる。
図2. 繰り返す黄斑浮腫の再発によって進行した中心窩視細胞障害
図2. 繰り返す黄斑浮腫の再発によって進行した中心窩視細胞障害
1+PRNレジメンで治療を行ったBRVO症例。治療開始後4か月の時点で3回目の抗VEGF薬硝子体内注射を施行。治療によって黄斑浮腫は消失するが、黄斑浮腫の再発を繰り返し、14か月の時点で8回目の硝子体内注射を施行。中心窩網膜厚の変動=fluctuationが大きい症例であり、5か月時点で中心窩ellipsoid zoneはわずかに断裂しているだけであったが、15か月時点では広範に欠損(矢頭)しているおり、視力も低下している。この症例ではより積極的な治療レジメンが必要だったと考えられる。
(文献)
  1. 1) Murata T, Kondo M, Inoue M, et al. The randomized ZIPANGU trial of ranibizumab and adjunct laser for macular edema following branch retinal vein occlusion in treatment-naïve patients. Sci Rep 2021;11:551.
  2. 2) Osaka R, Muraoka Y, Miwa Y, et al. Anti-Vascular Endothelial Growth Factor Therapy for Macular Edema following Central Retinal Vein Occlusion: 1 Initial Injection versus 3 Monthly Injections. Ophthalmologica 2018;239:27-35.
  3. 3) 長谷川泰司. 網膜静脈閉塞症における眼底イメージングと治療への応用. 日眼会誌2019;123:1038-1053.
  4. 4) Rahimy E, Sarraf D, Dollin ML, et al. Paracentral acute middle maculopathy in nonischemic central retinal vein occlusion. Am J Ophthalmol 2014;158:372-380.
  5. 5) Nagasato D, Muraoka Y, Tanabe M, et al. Foveal Thickness Fluctuation in Anti-VEGF Treatment for Branch Retinal Vein Occlusion: A Long-term Study. Ophthalmol Retina 2022;6:567-574.
  6. 6) Shimura M, Utsumi T, Imazeki M, et al. Efficacy-Based Aflibercept Treatment Regimen for Central Retinal Vein Occlusion. Ophthalmol Retina 2021;5:1177-1179.
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