第2回の眼循環トピックスは、今後の眼循環学会でも大きく活躍が期待される新進気鋭の先生方にお願いしました。今永直也先生には精力的に取り組んでおられる研究テーマである中心性漿液性脈絡網膜症(CSC)の病態における強膜の重要性について、片岡恵子先生には実臨床に即した話題として、多くの硝子体内注射を効率的に行うための工夫につきご教示頂きました。診療の合間の短時間で気軽にご一読頂ける内容になっています。是非お役立て頂ければ幸いです。
2013年にFreundらがpachychoroidと呼ばれる脈絡膜異常(脈絡膜肥厚、脈絡膜大血管拡張、脈絡膜血管透過性亢進など)の概念を提唱した1。その後、超広角インドシアニングリーン蛍光造影(ICGA)やen face OCTにおいて、渦静脈膨大部の拡張2や渦静脈吻合3が確認され、pachychoroidの本態は渦静脈のうっ滞であると考えられている。しかし、渦静脈のうっ滞をきたす根本的な原因は今以て不明である。
脈絡膜循環の流出路は4象限に分布された渦静脈であり、脈絡膜に流入した豊富な血流を眼外へと排出する。ICGAを用いた観察では、脈絡膜外層血管が眼球後極から周辺部に繋がり、複数の脈絡膜外層血管が渦静脈膨大部を形成し、眼外へ流出することが確認できる2。渦静脈は強膜を斜めに4 mm程度貫通し眼外へ血液を排出するため、強膜による脈絡膜血流のうっ滞が起こっている可能性がある。
我々は前眼部OCT(AS-OCT)を用いて、pachychoroid関連疾患の代表であるCSC眼では、正常眼に比べて厚い強膜を有することを発見した4。またCSC眼においては、後眼部の脈絡膜外層間質・上腔の液体貯留(loculation of fluid)5や前眼部の脈絡膜上腔の液体貯留(ciliochoroidal effusion)6が強膜肥厚により発症する可能性が示唆された。
CSC眼における短眼軸7や強膜肥厚4、脈絡膜上腔の液体貯留5, 6はuveal effusion syndromeにおける解剖学的、臨床的な特徴と同様である。CSC眼においてもuveal effusion syndromeの主病態である①強膜肥厚および硬化により渦静脈が絞扼され、脈絡膜血流の流出障害が生じている経渦静脈流出路障害8、②強膜肥厚により水分透過性が低下し、眼内組織液の眼外への流出が障害される経強膜的流出路障害9が生じている可能性がある。このいわゆる“pachysclera”がCSCの発症や慢性化、脈絡膜新生血管の発生にどのように関わるのか、今後さらなる検討が期待される。
抗血管内皮増殖因子(VEGF)薬の登場により、日常診療において硝子体内注射を行う機会は急増した。特に加齢黄斑変性では長期に渡り頻回の硝子体内注射を必要とするため、安全かつ効率良く注射することが患者側だけでなく医療者側からも求められる。当院における硝子体注射の効率化のための工夫をご紹介する。
投与眼の左右、投与薬剤が明記された札を首からかけていただく(図1)。左右や薬剤の打ち間違いはあってはならないアクシデントであるが、多忙な診療においては起こりうる。未然に防ぐために図1のように左右を色分けし、投与のベッドにも大きく色分けした左右を掲示(図2)、注射を行う医師と介助の看護師は声を掛け合い、予定されている投与眼の左右および薬剤と、札の左右および薬剤が一致していることを確認している。
ハイボリュームセンターである当院では、黄斑専門外来がある日は半日で60〜70件程投与している。効率的に注射を進めるために投与医師1名に対し2列のベッドを使用し並列で注射を行っている(図2)。靴の脱着は時間を要するため行っていない(図3)。また、注射治療を開始して間もない患者には注射後の注意点(洗顔の制限期間や抗生剤点眼について)の説明用紙をお渡ししている。
必要時投与(pro re nata, PRN)を行う場合、注射に対するネガティブな言葉(今日打ちたくないです等)や外来の忙しさ、外来終了間際の時間、医師の疲労などの要素は治療決定の判断を鈍くしてしまう可能性があると個人的には推測する。計画的投与のtreat and extendは良好な長期治療成績という点だけでなく、来院から注射までの一連の流れをスムーズに行えることを考えると注射の効率化という点においてもメリットがあるのではないかと考えている。
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