第40回日本眼循環学会が2024年7月19日・20日に郡山(福島県)で開催されます。
招待講演では、ライフワークとして加齢黄斑変性(AMD)関連の網膜色素上皮下の沈着脂質の病理学的な基礎研究、最近ではAMD前駆病変のドルーゼンの視機能への影響などを調査する臨床研究も行っているCurcio先生のご講演「Deposit-driven neovascular age-related macular degeneration」があります。唯一無二の研究で、ここ数年、ついに画像診断の観点でも注目され多くの共同研究の中心に立つ研究者です。一方、ドルーゼンを特徴とせず脈絡膜が厚い疾患群としてパキコロイド疾患の概念もFreund先生が提唱し、あらゆる角度から研究が進んでいますがその病態については未だ議論の最中にあります。シンポジウム1「パキコロイドの病態 ~ズバリ私はこう考える~」は大激論の場となりそうです。丸子一朗先生にその一端を紹介していただきます。シンポジウム2「眼循環評価が治療効果に繋がるのか?」では、眼循環の立場から様々な眼疾患の病態を理解し、治療に結びつけようとする試みをテーマとしています。眼循環学会にふさわしいセッションです。高橋成奈先生に発表内容を紹介していただきました。緑内障病態進行の個体差を理解する新知見となりそうです。シンポジウム3「進化する抗VEGF治療:選択と最適化」では抗VEGF治療をテーマとし、各適応疾患での薬剤選択や治療方針について情報アップデートに最適でしょう。いずれもHot
topicの招待講演・シンポジウムの興奮をぜひ現地で体感してください。
Pachychoroid(パキコロイド)は、黄斑疾患の既存の定義に当てはまらないため、理解が難しい新しい概念である。「厚い脈絡膜」を意味するパキコロイドは、2013年のFreundら1)の報告以降使われるようになった。光干渉断層計(OCT)は網膜診療で重要な役割を果たしていたが、2008年にSpaideら2)が脈絡膜観察を可能と報告して以来、脈絡膜観察がトピックとなった。特に、中心性漿液性脈絡網膜症(CSC)では脈絡膜が厚いこと3)4)5)、新生血管型加齢黄斑変性(nAMD)におけるポリープ状脈絡膜血管症(PCV)や他のAMDの一部でも脈絡膜が肥厚している例があることが報告された6)7)。
Freundらはパキコロイドの病態を持つ疾患としてpachychoroid pigment epitheliopathy(PPE)、pachyvessel、pachychoroid neovasculopathy(PNV)を報告した1)8)9)。現在では、CSCだけでなく、一部のPCVもパキコロイド疾患と認識されている。特に日本人ではnAMDの約半数がPCVであり、パキコロイドの理解が急務となっている。
日本眼循環学会では度々パキコロイドに関するシンポジウムが行われており、今年は「パキコロイドの病態~ズバリ私はこう考える~」がテーマとなり、様々な研究者が自分の考えを発表する。筆者もその一員としてパキコロイドの概要を説明する予定である。
パキコロイドを理解するには、脈絡膜の評価が重要である。インドシアニングリーン蛍光眼底造影やOCTなどの画像検査を通じて、脈絡膜中大血管の拡張(いわゆるpachyvessel)が生じる原因を探ることが課題となる。Pachyvesselは網膜色素上皮(RPE)の障害を引き起こし、先天的素因や強膜肥厚、静脈圧不均衡などが関与する可能性がある。我々は超広角OCTを用いてCSCでは後極部脈絡膜肥厚があるが、周辺部では正常眼と差がないこと(図)を報告している10)。これはCSC特有の眼球形態があることを示唆しており、パキコロイドを引き起こす一つの要因ではないかと考えている。一方で、RPE異常が様々な要因で先に生じ、それに伴う局所VEGF増加が結果的に生理的な脈絡膜血管変化(pachyvessel)をきたすとする考え方もある。実際には、どれが正解というよりは、複合的な要因でパキコロイドの病態は形作られていると思われる。
日本人のnAMDにはPCVが多く含まれており11)、パキコロイドを含めた再評価によりPNVが多く含まれるとの報告もある12)13)。元々日本人のAMDは欧米のAMDと異なり、ドルーゼンを介さない症例が多いことが指摘されてきた。高齢でRPE不整があるが、黄斑新生血管が証明できないグレーゾーン症例も存在し、パキコロイドが日本人のAMDの一端を説明するかもしれない。
本シンポジウムを通じて、日本人眼科医がパキコロイドに関する様々な考え方を理解し、国際的なパキコロイド研究の最前線に立つことを期待したい。多くの先生方のご参加をお待ちしております。
緑内障は多因子疾患であり、緑内障の発症および進行における非眼圧因子として、視神経乳頭部の慢性的な血流障害が密接に関与していることが近年明らかになりつつある。
簡便で非侵襲的に再現性良く視神経乳頭深部の血流動態を測定可能なレーザースペックルフローグラフィー(LSFG)を用いた先行研究では、視神経乳頭血流は視野異常が起きる前段階である前視野緑内障の病期において既に低下しており、緑内障重症化に伴い徐々に低下していくことが示された1)。また、乳頭周囲網膜神経線維層厚を調整しても、視神経乳頭血流は視野障害進行に独立して寄与することが示唆された2)。さらに、高齢や頻脈というリスク因子を有する緑内障患者では視神経乳頭血流低下が乳頭周囲網膜神経線維層厚低下に先んじて障害されることが報告された3)。これらの先行研究は、視神経乳頭の血流障害が緑内障の重症度と進行の両方に関連することを示している。視神経乳頭血流の低下により酸素と栄養の供給が不足すると網膜神経節細胞の減少につながる可能性がある4)。つまり、血流障害が緑内障病態に寄与すること、また、視神経乳頭血流を改善することが緑内障の治療につながる可能性が考えられる。
緑内障における慢性的な血流障害の病態を説明する一つの要因としてフラマー症候群がある。フラマー症候群とは、スイスの眼科医Josef Flammer医師により報告され、寒冷刺激などの外的刺激に対する血管応答が過剰であり、血流障害が出現しやすく緑内障を発症しやすい素因を有する人々であると報告されている5)。フラマー症候群は冷え性・低血圧・痩せ型・偏頭痛の有無などといった15項目の問診票によって、外来でも容易にスクリーニングすることができる。ページトップへ戻る