第41回日本眼循環学会を2025年7月19日・20日に神戸で開催いたします。
今回の眼循環トピックスでは、プログラムの目玉であるシンポジウム1「脈絡膜厚を決めるのは誰だ」と、シンポジウム2「全身から眼循環を洞察する」の演者の中から、それぞれ1名ずつ、ご自身の口演内容のエッセンスを紹介していただきました。
シンポジウム1の演者である京都大学の上田奈央子先生は、脈絡膜を薄くする因子としてreticular pseudodrusenを挙げておられます。ドルーゼンの一型であるreticular pseudodrusenと脈絡膜菲薄化、網脈絡膜萎縮との関連の可能性について解説くださいました。シンポジウム1では脈絡膜循環、眼軸長といった観点からも、脈絡膜厚について議論されます。
シンポジウム2からは、慶應大学の羽入田明子先生に、ライフスタイルと緑内障との関連についての研究成果の一部をご紹介いただきました。眼循環の基本に戻って、全身が眼循環に及ぼす影響を議論するこちらのシンポジウムでは、目からうろこの話題が繰り広げられるものと思います。
Amani Fawzi先生の招待講演「Imaging the vasculature in diabetic retinopathy: understanding progression and effect of treatment」、若手が丁々発止のdebateを行うシンポジウム3「若手が挑む!徹底討論 Pros&Cons」も楽しみに、ぜひ神戸にいらしてください。
7月19日、20日に神戸で開催されます第41回日本眼循環学会シンポジウム1「脈絡膜厚を決めるのは誰だ」のセッションで、「加齢黄斑変性における萎縮の発症および進行と脈絡膜およびreticular pseudodrusenの関与」という内容で講演させていただきます。
加齢黄斑変性(AMD)における黄斑萎縮は、中心窩に及ぶと重篤な視力障害の原因となる重要な所見です。その発症や拡大のリスク因子についてこれまで様々な検討が行われていますが、その中で「薄い脈絡膜」、「reticular pseudodrusen」といったキーワードは萎縮型、新生血管型に関わらず、AMDにおける萎縮のリスク因子として挙がってきます。
視細胞や網膜色素上皮(RPE)が脈絡膜から血流を受けていることより、脈絡膜の循環障害が萎縮の発症や進行のリスクとなることが推察されますが、萎縮型AMD眼では正常眼に比べ脈絡膜が薄い1)、脈絡膜厚が薄いほど地図状萎縮(GA)の面積が大きくGA拡大速度が速い2)、萎縮の境界領域ではRPEの構造異常が生じる前から脈絡膜毛細血管血流が高度に減少している3)といった報告はこれを支持しています。
Reticular pseudodrusenは後期AMDへの進行のリスク因子であることが知られていますが、近年AREDS2のポストホック解析によりGAの速い拡大とも有意に関連があることが示され4)、我々が行った日本人の萎縮型AMD多施設研究のコホートにおいても同様の傾向が見られました5)。また、拡大速度が特に速いdiffuse-trickling type GAはreticular pseudodrusenを伴い脈絡膜が非常に薄いだけでなく、若年での心筋梗塞の発症率が有意に高いことが示されています6)。
また、新生血管型AMD眼の抗VEGF治療中に見られる新たな黄斑萎縮の出現や、既存の黄斑萎縮の拡大のリスク因子として、薄い脈絡膜、type 3 MNV、reticular pseudodrusen、僚眼の黄斑萎縮などが報告されています7)。
このように、reticular pseudodrusenはAMDにおける萎縮と深く関わっており、脈絡膜が薄い特徴を持つことより脈絡膜の循環障害を反映している所見である可能性があります。興味深いことに、心血管系疾患との関連も報告されており、全身的な循環障害に由来する所見ではないかという説もあります8)。Reticular pseudodrusenの病態解明は、AMD眼における萎縮、ひいてはAMDの病態解明につながるかもしれません。
ライフスタイル病(lifestyle-related diseases)は、長期にわたる不適切な生活習慣—過栄養、運動不足、喫煙、過度な飲酒、慢性ストレス、睡眠障害など—を背景に発症・進行する疾患群であり、高血圧、2型糖尿病、脂質異常症、虚血性心疾患、脳血管障害、ならびに一部の悪性腫瘍(大腸がんや乳がん)を含む。近年、これらのライフスタイル病と眼疾患との関連が注目されており、とくに緑内障との関連が複数の疫学的研究により示唆されている。緑内障は本邦における中途失明原因の第1位であり、高齢化に伴い益々有病率の増加が懸念されるため、ライフスタイル病、特に、高血圧や糖尿病との関与が注目されてきている。
血圧と眼圧の関係については、複数のメタアナリシスにより、収縮期・拡張期血圧の上昇が有意に眼圧上昇と関連することが示されている1。我々の研究でも、地域住民約1万人を対象とした本邦の疫学調査において、高血圧群では非高血圧群と比較して高眼圧症の有病率が約2倍であることを確認した2。一方で、血圧と緑内障罹患との関連は一貫性に欠け、特に拡張期血圧との関連性には議論の余地がある。これを説明する指標として眼灌流圧(ocular perfusion pressure: OPP)が注目されており、OPPの低下は視神経灌流不全を通じて緑内障の進行に寄与する可能性が高い3。正常眼圧緑内障患者を対象とした研究では、収縮期血圧108mmHg以下の群で網膜神経線維層の菲薄化が有意に進行していた4。また、レーザースペックルフローグラフィーを用いた研究では、視神経乳頭血流は視野異常が起きる前段階である前視野緑内障の病期において既に低下しており、緑内障重症化に伴い徐々に低下していくことが報告5されており、血圧の下げすぎもリスクとなり得る可能性を支持している。
また、糖尿病も緑内障リスクを約1.5倍増加させる6ことがメタアナリシスにより示されており、国内の大規模住民調査でも、血糖値およびHbA1cが眼圧と正の関連を示し、この関係は角膜厚調整後(注:血糖値が高いと角膜厚も厚くなるため、眼圧が見かけ上高くなることが知られている)も有意であった(下図)7。高血糖は線維柱帯における終末糖化産物(advanced glycation end-products: AGE)の蓄積8やフィブロネクチンの増加9を介して、房水排出障害を引き起こし眼圧上昇に寄与する可能性がある。したがって、血糖コントロールは高眼圧予防の観点からも重要であると考えられる。
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