いよいよ第39回日本眼循環学会まであと1か月を切りました。奈良では久しく無かった眼科全国学会です。学問だけでなく、名所旧跡の多い奈良をぜひ楽しんでいただきたいと思います。有意義な学会になるように努めますので、多数のご参加をお待ちしております。
パキコロイドは脈絡膜外層血管、すなわち渦静脈の拡張を伴う脈絡膜肥厚を指し、光干渉断層計(OCT)の機能向上によって明らかになった病態である。En face OCTを中心としたmultimodal imagingの進歩により、パキコロイドにおける渦静脈の特徴的な形態が報告されるようになった。その一つが渦静脈の吻合である。
渦静脈は、水平・垂直の分水嶺によって4象限に分割されるとされている1)。しかし、En face OCTを用いて渦静脈の形態評価を行った我々の検討では、パキコロイド関連疾患である中心性漿液性脈絡網膜症(CSC)、pachychoroid neovasculopathy(PNV)、ポリープ状脈絡膜血管症(PCV)では、90%以上の症例で黄斑部において水平分水嶺を跨ぐ上下の渦静脈吻合が確認された2)。一方、正常眼では、この黄斑部における渦静脈吻合が観察されたのは約40%のみであった2)3)。
パキコロイドにおける渦静脈の吻合は何を意味しているのだろうか?以前、裂孔原性網膜剥離に対する強膜バックリング手術後の渦静脈吻合形成が報告されており、吻合は渦静脈のうっ滞に伴う渦静脈流出路のリモデリング所見と考えられている4)。このことから、パキコロイドにおいても渦静脈のうっ滞が存在し、側副血行路として渦静脈吻合が形成されていると推測される。また、CSC、PNV、PCVの約1/4の症例では、インドシアニングリーン蛍光造影の早期動画で、吻合を形成する渦静脈の拍動がみられ、これらの所見も渦静脈うっ滞を示唆すると考えられる5)。渦静脈を眼外で結紮した渦静脈うっ滞サルモデルでは、渦静脈拡張を伴う脈絡膜肥厚だけでなく、分水嶺を跨ぐ渦静脈の吻合形成や渦静脈の拍動が観察された6)。よって、基礎研究からも渦静脈のうっ滞がパキコロイドの病態に関与することが示されたことになる。
渦静脈のうっ滞に伴う渦静脈吻合は、パキコロイドの病態に関与する重要なファクターである。また、渦静脈のうっ滞を解消することが、パキコロイド関連疾患の予防や根本的治療につながる可能性がある。
近視を伴う緑内障は診断しにくい症例が多いことはよく知られている。緑内障の有力な補助診断機器である光干渉断層計(OCT)も強度近視眼では画像のアーチファクトが強く出てしまうことや、正常データベースとの比較が困難であることなどから誤った診断結果が提示されてしまうことも多い。そこで近年は、近視による眼底変化の影響を比較的受けにくい網膜の血流パラメータを用いて近視眼を診断することが注目されている。OCTの最新機種には手軽に網膜の血管密度を評価できるOCT angiography (OCTA)が搭載されている。OCTAにより測定された網膜表層の毛細血管密度は従来の緑内障評価パラメータである乳頭周囲網膜神経線維層厚と比較して、segmentation errorや拡大率補正の影響を受けにくいため近視眼ではより安定したパラメータとして使える可能性が示唆されている1。(図1)
また、近視は緑内障の最大のリスクファクターの一つであるが2、近視眼の眼血流減少がその原因の一つではないかとする仮説がある。しかし、近年のOCTAを用いた報告より網膜表層の血管密度は眼軸長と相関しないことが示唆されており、少なくとも網膜表層の血流減少は緑内障と強い関係はないと考えられている。しかし、脈絡膜層の血流評価は視野欠損の部位や進行の有無と関連するとの報告があり、深層の血流変化は緑内障の発症や進行と深く関わっている可能性がある。特に近視眼に多い傍乳頭網脈絡膜萎縮(Peripapillary atrophy: PPA)内の脈絡膜血管は網膜表層の毛細血管と比較して著しく減少しており3、PPA内の脈絡膜血管の局所的脱落(Microvasculature drop out: MvD) (図2)は強度近視を伴う緑内障眼に多く認められる所見として注目されている。MvDの位置や大きさは視野異常の出現部位や程度4、進行速度5との関連が報告されており、今後近視を伴う緑内障の視野異常出現や進行の予測因子となりうる可能性もある。
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