いよいよ富山での第38回日本眼循環学会が1か月後に迫りました。予定通り現地開催をいたします。感染対策をしておりますので、安心してお越しください。私自身も最近あらためて学会の現地開催の重要性を感じました。会員の皆さまが楽しく、美味しく富山で眼循環の話題で意見交換できる学会を目指しています。
網膜神経節細胞(Retinal ganglion Cell; RGC)の軸索は層構造により形成された篩状板の小孔(Lamina pore)を潜り抜ける。緑内障は、高眼圧に伴う篩状板での機械的な軸索絞扼が原因であるが、血流障害も関与していると考えられている。すなわち、乳頭周囲の微小循環障害は篩状板にダメージを与え、間接的にRGCの細胞死を引き起こす。以前から血流障害と網膜神経細胞死のどちらが先か、すなわち鶏が先か卵が先かという議論があったが、近年のOCT angiography(OCTA)を用いた解析で、緑内障眼の乳頭深部毛細血管の脱落が一部で神経線維欠損に先行して起こることが示された1)。また、レーザースペックル法やレーザードップラー法を応用した眼血流の詳細な解析で、緑内障初期の血流低下や濾過手術後の脈絡膜血流の変化が報告されている2,3)。
さて、脈絡膜は網膜と比べて血管透過性が高く、変動も大きい。自律神経の影響を受けて絶えず変化している。では、緑内障と脈絡膜はどのような関係があるのであろうか?篩状板への循環や機械的な負荷は部位によって異なり、微小ながら日々蓄積していると考えられる。鳥類は遠く離れた川魚を瞬時に見つけて素早く獲物を捕獲する。このナゾは、恐らく霊長類に比べて4~10倍も変動する脈絡膜にあり、瞬時の調節力が桁外れであることを示唆する。人間の脈絡膜にもわずかな変動があり、厚みや変動幅には個人差もある。日常生活の中で、近見調節や眼圧、眼軸長など一連の動きが常に連動して変化している4)。例えば近見作業で脈絡膜は薄くなり、眼球壁を後方へシフトさせる力が働くことから強膜が脆弱な幼少期では眼球が伸展し近視化する原因となる。日々の生活でこうした自律神経の調節に脈絡膜はデリケートな反応をしているのであろう。緑内障の病態が解明される中で、今後さらに脈絡膜との関係が明らかになることが期待される。
光干渉断層計(OCT)の機能向上によって脈絡膜の詳細な観察が可能となり、脈絡膜外層血管の拡張を伴う脈絡膜肥厚の存在が明らかとなった。これをpachychoroidと呼んでいる1)。Pachychoroid関連疾患には、中心性漿液性脈絡網膜症(CSC)、pachychoroid neovasculopathy (PNV)、ポリープ状脈絡膜血管症(PCV)などが含まれる。Pachychoroidはアジア人に多くみられ、アジア人の加齢黄斑変性の発症に関与することが示唆され注目を集めている2)。
CSCではインドシアニングリーン蛍光造影(ICGA)やen face OCTで渦静脈の拡張が確認され、その領域に一致してICGAで脈絡毛細血管板の充盈遅延がみられる3,4)。PNVにおいても同様の所見がみられ、脈絡毛細血管板の充盈遅延領域内に色素上皮萎縮や脈絡膜新生血管が存在する5)。また、CSC、PNV、PCVの90%以上の症例において、en face OCTで黄斑部における上下の渦静脈吻合が確認されている6)。さらに、CSC、PNV、PCVの約1/4の症例では、ICGAで渦静脈の拍動所見がみられ、逆流性の拍動所見を呈する症例も存在する7)。これらのことから、渦静脈のうっ滞に伴う脈絡毛細血管板の慢性虚血がpachychoroid関連疾患の主病態であると我々は考えている8)。
この仮説を証明するために、我々は渦静脈結紮による渦静脈うっ滞型サルモデルを作製した。このモデルでは、渦静脈結紮後にen face OCTで渦静脈拡張と分水嶺を跨ぐ渦静脈吻合、ICGAで脈絡毛細血管板の充盈遅延と拍動性渦静脈血流が観察された。以上より、動物モデルでも渦静脈のうっ滞がpachychoroidの病態に関与することが示された。渦静脈うっ滞型サルモデルの内容については、本年の日本眼循環学会で発表予定である9)。
今後は、pachychoroid関連疾患の更なる病態解明とともに治療法の確立が必要とされる。早期に渦静脈うっ滞を解消することができれば、アジア人における加齢黄斑変性の発症予防にもつながる可能性がある。
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